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平成19年6月27日
福岡の小劇場系演劇状況の概要(2007年6月)
FPAP事務局長 高崎大志

当レポートは、2004年4月3日に公開した「福岡の小劇場系演劇状況の概要」の補足の体裁をとる。そのため同レポートを併せてご覧いただきたい。

● 劇団の状況

ギンギラ太陽'sはその動員を5400人へと伸ばした(2007年4月)。パルコ劇場での公演を成功させ、今後もその活動が注目される。劇団轍がぽんプラザホールロングランシアターにて動員1000人を突破し、1000人越えの劇団が一つ増えることとなった。
継続的な活動を前提としないユニットのような団体が増えている。一方、一定の固定メンバーで継続的な活動を前提とする劇団の増加には頭打ちが見られる。同様に演劇にかかわる人数は微増というところであろう。
ユニット・劇団数の増加に比して、総演劇人人口はそれほど増えてはいないため、役者の年あたりの出演回数が増えている。経験を積めるのは良いことであるが、適切な練習期間が設定できなかったり、役者が複数の芝居を掛け持ちしていたりして、公演の平均的なクオリティは低下しつつあるという見方もある。
総じて中堅以上の団体はそのクオリティを保っており、他地域と比べて遜色ないレベルにあるが、下位層の団体が動員・クオリティを上げて中堅層に入るという例は少ない。団体数の増加と平均の低下は避けられないものであるが、クオリティの向上が課題として認識され始めている。

● 人口、周辺都市

福岡市の人口は140万人となり、前回のレポートよりも増加している。

●劇場の状況

劇場の状況にはいくつかの変化がある
福岡市では新たな劇場建設の動きがあり(大劇場、中劇場、小劇場)その動きが注目されていた。地域舞台芸術団体41団体の同意による「新劇場への要望書」が福岡市へ提出された。しかしながら福岡市長選挙で現職の敗退に伴い、新劇場建設の動きは事実上頓挫したように見える。
2007年に民間の新劇場(キャパ50〜150?)の稼働が計画されている。
博多駅の新ビル建設に伴いできるスペースは多目的スペースとなるようで劇場の利用が出来るかどうかは定かではない。

前回のレポートで、主要劇場として取り上げたNTT夢天神(250)での地域劇団の公演数は減少の傾向にある。前回のレポートで劇場のステップアップとして提示した
ぽんプラザホール(108)→NTT夢天神(250)→西鉄ホール(400)
は、現在では実感がない。

西鉄ホールはその利用料金の高さから、普通にいけば地域劇団が公演できる機会は実質的にないと言えた。2006年5月に「福岡演劇フェスティバル(プレ)」と銘打ち、地域小劇場系中堅の3劇団の公演が行われた(他にも、北九州の劇団、大阪の劇団、ギンギラ太陽'sの公演が行われた)。2007年には第2弾の企画がおこなわれ、夏には福岡の中堅劇団の提携公演がおこなわれる。西鉄ホールが地域の劇団により開かれた存在になりつつある傾向ととれるかも知れない。
400席の客席は小劇場系演劇になじまない場合もあるが同ホールを指向する団体にそのキャパでの公演を表現的・制作的に成立させることに対する関心が高まってくるであろう。

● 練習場の状況

練習場の状況として、平成17年3月より、南区大橋に新たな音楽・演劇練習場「ゆめアール」が開設された。劇団の旗揚げや継続に必要な練習場の環境においては、さらに充実した状況となった。これで市内に公共の練習場が3施設となり、全国屈指の環境が整備された。
公共の練習場が充実していることはよいことだが、反面、専用の練習場を持つ劇団が極めて少ないという状況にも繋がっている。創作を追求できる専用の練習場が表現のレベルをあげることは明らかであり、公共の練習場が充実しているために、自前の練習場を持つ意欲がうまれにくく、地域演劇の表現のクオリティに影響を与えている。という状況にもなっている。
一ヶ月ほど専有して利用できる練習場が、次の課題である。

● 横のつながり

この2年間で横のつながりは大いに活性化した。福岡のここ数年の最大の成果は、福岡の各種の文化資源が実効性のあるネットワークを拡げ、有機的に機能し始めたことにある。
ネットワーク活性化の代表的な例としては
・福岡の演劇プロモーター「ピクニック」が平成17年、18年に地域の演劇人をメインとしたプロデュース公演を行う。
・西鉄ホールで地域の中堅劇団の公演の機会が与えられる

また、福岡と北九州・熊本・長崎・大分といった他都市の演劇シーンのネットワークも活性化し始めており、代表的な例として
・九州演劇人サミットの開催(熊本→福岡→長崎→宮崎→佐賀(佐賀は2008年開催予定))
・熊本の劇団の福岡での役者ワークショップの開催
・北九州の劇団の福岡での公開稽古の開催
・佐賀の演劇祭に福岡の団体が多く出場
・大分の劇団の福岡公演に、福岡の役者が多く出演
などがあげられる。

九州内に目を転じると、各地域で横のつながりや演劇祭が始まっている。今後も九州内の県を超えた連携は高まっていくものと思われる。

● 観客層、批評感想

福岡演劇のひろばを中心に、地域演劇観劇層を中心とする懇親会が定期的に開かれるようになっている。地域演劇観劇をライフスタイルとする(月に1本以上の観劇)観劇層に厚みが増している。これらの人材間には交流があるが、感想についてやりとりを交わして相互研鑽をおこない、その過程で洗練された意見を劇団にフィードバックする。という所には至っていない。
この動きと平行して、ブログの発達により福岡のレビューの状況は充実してきた。地域演劇を観劇してレビューを書く人が増えたという状況は顕在化しており、3年前と比べて大きな前進がみえる。
人口に対してのレビュアーの数という点で言えば全国屈指の環境といえる。平成18年に全国規模の舞台芸術レビューサイトCorichが開設したが、福岡都市圏に居住する観劇層の投稿は、人口に対し他都市と比べ高い状況であり、福岡の地域演劇の盛り上がりを証明していると言える。
現在は、個人の感想レベルでのレビューが多く、その劇団がどういう芝居をしたいのかということを受け止めた上での劇評にいたるものはまだ少ない。今後これらの層からより客観性をもった劇評の書き手がでてくるだろうと思われる。

2年前のレポートでの重大な欠落であるが、福岡地域の演劇批評誌NTRも活動を継続している。季刊であることと専門性が高く発行部数が少ないことなどから、その影響は大きいとは言えないが、継続して活動している実績は高く評価されるべきで、今後の展開によってはおおきな成果をあげていくことが期待できる。

● 行政の姿勢

従来の福岡市の地域演劇に対する文化行政はハード型であるといえる。直接的に制作や支援を行うのではなく、まずは地域の表現団体が活発に活動できるように練習場と劇場を用意し、現在の福岡の地域演劇を下支えしている。
現在、小劇場系地域演劇について福岡市の文化行政は、福岡市の外郭団体である「福岡市文化芸術振興財団」がその多くを担っている。北九州市などと比べて予算に制約のある中で、より効果的な事業を模索しているように見える。
この3年間で特筆すべきことといえば、地域の劇団をコアにした財団初のセルフプロデュース公演を行い、福岡と利賀での公演を行ったことがあげられる。行政でしかできない地域の演劇人に大きなプラスの影響を与えるか、実態通りに評価されていない福岡の地域演劇に全国の注目を集めるような事業が期待される。
福岡都市圏のなかに大野城市があるが、その外郭団体は従来から地域演劇に熱心な動きを見せている。福岡の地域演劇への恩恵も少なくない。リンクシアターという先進的な事業を全国に先駆けて行うなど、福岡の地域演劇にかかせない役割を果たしつつある。

● ワークショップ

行政だけがワークショップを開催していた3年前と比べ、ワークショップの数が増えてきた。役者を対象としたものだけではなく、制作者やステージスタッフを対象としたもの、演出家を対象としたものなど、バリエーションも増えてきた。
行政が実績のある講師によるワークショップを開催していた時期に比べ、ワークショップの数の増加に伴い、玉石混合の様相を見せてきたことも事実である。ワークショップを受ける側にも、ワークショップの内容を見抜く目が求められるようになった。

● 今後の展望

福岡の演劇関係者がつちかったネットワークが機能し始め、九州の他地域あるいは九州外の他地域からの福岡への注目が集まり始めている。今後、他地域との交流や他地域の表現団体の福岡公演が増加の傾向を見せそうである。これが福岡の地域演劇にもなんらかの影響を与えていくことが予測される。

地域劇団の平均的なクオリティの向上が見えにくい状況については、地域演劇を支援する団体の適切な支援がいまこそ求められていると言うべきであろう。(長崎・熊本の地域演劇でリージョナルシアター出場を果たす団体があり、めざましい活躍をしているが、長崎・熊本と福岡ではそもそものスタート地点が異なるため安易な比較は避けることとする。)

高校演劇や大学演劇から10年ほど前の活況がうしなわれてきた。これは福岡に限らず他地域においても同様の傾向が見られるようである。高校演劇や大学演劇は地域の舞台芸術団体を輩出する重要な母体であり、その停滞は中長期で見たときの地域演劇の状況にも確実に影響を与える。その活力を維持できるなんらかの方策が期待される。

福岡ではエンターテイメント系の芝居が主力であり地域性を反映した特徴といえるが、近年アーティスティックな方向性の演劇が増え始める徴候をみせている。多様な方向性の演劇がある状況に近づくことは地域演劇の環境としてたいへん良いことだとと言える。

平成18年からNPO法人FPAPはぽんプラザホール(劇場)とゆめアール(練習場)の指定管理者となった(ゆめアールはこども文化コミュニティとの共同運営)。職員数や予算の増加により、ぽんプラザホールのみの受付業務時代と比べ、文化振興事業数は向上を遂げ福岡の地域舞台芸術の振興に尽力している。
平成20年には次回の指定管理者の選定があり(平成21年4月以降の指定管理者を決める)この結果によっては、福岡の演劇状況が大きく変わる可能性がある。

注:ここにあげられた情報は、大きく外してはいないと思うが、筆者個人の感覚によるところが多いことを断っておく。また、誤情報の指摘には随時修正の用意がある。こういう内容をまとめたということを評価してもらって、平にご容赦願いたい。

 
 
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