島田佳代さん (演劇集団非常口) インタビュー

自らが代表を務める「演劇集団非常口」の成り立ちや

『四畳半の翅音』福岡公演の様子を聞きました





上演日時
2013年8月17日(土)19:00 ◎アフタートーク有
2013年8月18日(日)14:00 ◎アフタートーク有
場所
ぽんプラザホール
アフター
トーク
劇作家の皆さんをお招きし、アフタートークをおこないました。
(17日)ゲスト:高橋克昌、山下キスコ
(18日)ゲスト:松野尾亮、伏見美穂
インタ
ビュアー
FPAPサポート・スタッフ 大野智子さん

胸糸病に関してもフィクションでありながらどこかしら現実的な匂いもするというバランスは意識しました

 

大野さん:今回、実在する九州という舞台の中に、
胸糸病という架空の設定を取り入れるにあたって、
何か意識したことはありますか?

島田さん:作品を書くときは自分が暮らしている地域を舞台のモデルにすることが多いです。
そこで起こる出来事についてはフィクションですので、
胸糸病に関してもフィクションでありながら
どこかしら現実的な匂いもするというバランスは意識しました。
たとえば、作品の中に胸糸病の予防薬とされているサプリメントが出てきますが、
ただの「地区で販売されているサプリメント」では
バランス的に現実っぽい匂いが弱いと思ったので
「このサプリメントは九州の国立大学が共同で開発している」という
ちょっと具体的なせりふを入れました。

   

大野さん: 今回の作品を創るにあたり、最初のインスピレーションはどこからですか?

島田さん:まず宮崎の口蹄疫が問題になった時期の空気です。
わたしが生活しているのは鹿児島ですが、宮崎との県境に位置する地域です。
白い防護服のひとたちが道路脇で車のタイヤを消毒している光景、
家畜を飼育している農家や農業高校の正門が石灰で真っ白になっている様を目にしたり、
職種によっては宮崎へ入ることを会社全体で制限していたり、
そういう状況の中で生活していました。
自分も高速道路の出入り口で消毒槽を通ったり。
目に見えない伝染病なので、どこにウイルスがいるかわからないわけです。
自分では気付かないうちにウイルスを町へ持ちこむ可能性もあります。
病気はそこから広がります。非常に恐ろしいと思いました。

大野さん: 鹿児島弁を戯曲の中で取り入れようと思われたのは何故ですか?

島田さん: 数年前に、先輩の劇作家から、
より生活に近い感じにするために地元のことばを使ってみてはどうかと
アドバイスいただいたのがきっかけです。
いつも喋っているのに、いざ書くとどう表記していいか
戸惑ったりして最初は難しかったんですが、今では面白くて。
「四畳半の翅音」は鹿児島弁で書きはじめてから3作目の作品になります。

大野さん: 今回の作品世界はテーマとすごく合致していると思いました。
例えば、あえてテーマを作品世界で表現しない作品もあると思うのですが、
今回そういった所は、どのように意識されましたか?

島田さん:テーマというのがよくわからないというか、そんなに意識していなくて。
お読みになった方や舞台をご覧になった方が
それぞれで何か感じていただけているのかなという印象です。
そのこと自体がありがたいです。

     

大野さん: 劇中の「吐き気がする程、懐かしい」というフレーズがとても印象的です。
とても慈しみのある言葉だなと思いました。 島田さんは、どういった思いで、このセリフを書かれましたか?

島田さん: 時間は過ぎてゆくので、
生きている時間のすべてが次の瞬間には戻らない過去になっていきます。
そこにいた愛しいひとやそこで起こった出来事を
どんなに恋しく懐かしく思っても、もう戻れません。
時間の流れは絶対的なもので、自分の力ではどうにもならない。
思い出の中には、たとえば「涙がでるほど懐かしい」という表現では
足りないくらいの重みをもったものもある。
そこをなんとか表現したくて「吐き気がするほど懐かしい」と書いてみました。
慈しみがあると思っていただけて嬉しいです。

大野さん:今回の舞台を観て、私はこのように感じました。
「生きる」ために生きるのではなく、いかに自分という人間の尊厳を持ったまま生きるか。
この世はそんな戦いの正念場だなあ、と。
島田さんの中では、どういった思いでこの作品世界を創りあげていったのでしょうか?

島田さん: 個人的な話になりますが、家業の寝具店が高校のときに倒産してしまいまして、
それが非常に衝撃的で「うちは他の家庭とは違う」という引け目みたいなものをずっと感じていました。
ご質問の中で「尊厳」という言葉をいただきましたが、
経済的に困窮していたことで自らの尊厳まで自ら蔑んでしまっていたのかもしれない気がします。
劇中、主人公の響子が「自分の知っている世界は四畳半くらいのものだ」と言いますが、
自分が実際にそう思ったことがあって、これは拭えない劣等感からきています。
でも、響子は「生きていかなければならない」とも言います。
おっしゃるとおり、生きることそのものが尊厳を持って生きるための戦いだと思います。

     

大野さん: 地元・伊佐を離れ、福岡で公演するにあたり何か想いがあれば教えてください。

島田さん: 約12年間、地元でやってきたことを他の地域へ持っていく緊張感はあります。
福岡公演を決めたときは、とにかく何がなんでも公演をやり遂げるという想いだけでした。
福岡という大きな町で、今まで非常口をご覧になったことのないお客様に
公演を観ていただけるというのは、やはり大変感慨深いものがあります。

大野さん: 8月に戯曲ワークショップが開催されましたが、そこで島田さんが思ったこと・感じたことはありますか?

島田さん: わたしも過去に「なんとか書けるようになりたい、書きたい自分をどうにかしたい」という想いから、
戯曲講座を2回受講した経験があります。
なので、そのときの気持ちを思い出していました。
みなさんもきっと書きたい想いを強く持って参加されているんだろうな、と。
とても熱心に話を聴いてくださって、書くときも真剣で。
みんなで読んでみるときや、講評の最中に笑顔が見えると嬉しかったです。
まさに十人十色で、せりふや内容にはその方自身が出るというのを
短いワークショップの中でも確かに感じました。
悩みながら書いた方も多くいらっしゃったと思うのですが、
それぞれが自分にしか書けないものを内包してらっしゃるので、自信を持っていただきたいと思いました。

大野さん: 非常口さんは高校演劇部から、すっと継続されている劇団ですが、それについて何か思いがあれば教えてください。

島田さん: 高校演劇部が楽しくて、演劇が好きで、そのままずっと続いてきている気がします。
よく続いたなとも思います。
夏休みの楽しい思い出をいまだに紡ぎ続けているような感覚です。
一緒に立ち上げたメンバー、現在共に活動してくれるメンバーに感謝しています。

大野さん: 劇団員の方達とも長い付き合いだと思いますが、それについて、どう感じられますか?

島田さん:変なもので、一度でも一緒に公演すると、もう戦友みたいな感覚になります。
一緒に活動していくとそんな感覚が繰り返されます。
意見や考え方の違いなど当然あるのですが、それも含めて苦楽を共にする同志というか、
ある意味家族っぽいというか。
わたしが単純なだけかもしれませんが。長く付き合ってもらえて幸せです(笑)


『四畳半の翅音』福岡公演 主催・共催・協力

主催:演劇集団非常口
共催:NPO法人FPAP
協力:(公財)福岡市文化芸術振興財団

初心者・未経験者のための戯曲ワークショップ「書こうぜ、せりふっ!」

■2013/8/3(土),4(日) 島田さんの戯曲WS レポートサイト