「ブラッシュ」第3弾 上野隆樹『孤影-Shadow Loyalty-』レポート

 

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この企画は、戯曲ブラッシュアップのためのリーディング企画として、
新進劇作家の新作を、実際に役者による リーディングを行った後、
観客の皆さんを含めて作品についてのディスカッションをして、
作品をよりよいものにしよう、という企画です。
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ステップ3:観客から作者へ
(作者のつくりたい作品を正確に理解するための質問)

ステップ3では、
この作品をより理解するために、観客から作者へ質問をしてもらいました。

まずゲスト劇作家の川口さんより、
「ドラマ的なものを作りたくて政治的なものを入れたのか、
政治的なものを書きたくてドラマにしたのか。」
という質問がありました。

ここで上野さんが、
作品ができた経緯を説明してくれました。

「5年前に構想ができた。その時は高校生。選挙権のどうのが話題になっていた。
周りで『俺たちがいうこと何も伝わらない。投票したって一緒だよ』
という声がよく聞こえていた。
大人がいいようにやっているだけだという、政治に対する不満とか、
それが元になった。」

ということでした。

「かなり前時代的な内容だと思った。
興島の役は上野さんの政治家のイメージ通りなのか、アレンジしたのか。」
という質問には、

「政治家のイメージとは違うけど、
興島をある種のヒトラーにしたかった。

現代がヒトラーがいた時代と(現代は)なにが違うんだと言われたときに、
否定したかったのにできなかった。

(世界で起きている政治の)制度があそこまで票をのばすことは
意味がわからないとなるはずなのになっていない。

わざと、現時代の政治を描いている。こうなんじゃないかという政治」
と答えてくれました。

高校生という若さで政治に対する考えがしっかりしていたこと、
構想を考えていたという話には、感心の声もあがりました。

このほかにも、
「福岡県大学合同公演ですると聞いたが、
学生が役者でやるにはとても表現が難しいのではと思ったが、どう思うか」

という質問には、

「大学生が演じられるものだとは確信していない。
でも、大学生が挑む場が合同公演だと思っている。」
と、難しいからこそ挑戦したいという、熱い意志を見せてくれました。

 

ステップ4:観客から作者へ(個人的に、ここをこうすればこの脚本はもっと良くなるのではないかと思ったこと。)

このステップでは、とても多くの意見をいただきました。

まずは川口さんから
「ストーリーが伝わったほうがいいなら、
描かれている世界の前提がもうちょっと先にわかってたほうがいいのではないか。

パラレルワールドの日本なのか、現代の日本なのか、ほかの国なのか、とか。

どの時代の話なのだろうとかも気になる。

ケータイが出てこないところや、
いろんな人が総理のところにすぐ来ちゃえるところなど。」

他の方からも、
現代の設定だが、現代とすると違和感がある設定が個人的に少し気になる、
という意見がいくつか見られました。

また、
「時系列と人物相関図をもっと整理したほうがよいかと思った。

最終的に、組み立てた相関図が裏切られる感じがあった。

ここはこうだろうと組み立てたところが
台詞によって壊される矛盾がたくさんあった。

文字でちゃんと確認してもらうと、こちらも個人的に受け取りやすい」

「台詞が、心の描写か事象の羅列か説明のどれかがほとんどだと個人的に思った。」

「『伝わる伝わらないは考えずに、
自分が作りたい作品を作るといい作品ができる』という言葉があって、
それを乗り越えて書いているのがすごいとおもった。

ト書きで表しているシーンを台詞化したら、
個人的に面白いんじゃないかとおもった。」

という、リーディング企画ならではのご意見もありました。

今回の「孤影」は展開が多い作品で、
「難しい。わかりにくい」というご意見を多く頂きました。

どうすればわかりやすくなるか、という課題には、

「聞きながら血の繋がりを予想しながらいったが、
間違ったかなと思ったりしても、解釈しなおす暇がなく新しい情報が入ってきて、
展開が進んでいくので、置いてけぼりになってしまう。

一旦情報量を落ち着かせるシーン、
必要な無駄なシーンがあったらいいんじゃないかと個人的に思った。」

という、ご意見も出てきました。


こうした様々な意見が出たなかで、司会から川口さんへ、
「川口さんだったら、どの意見を取り入れようとおもうか」という質問があり、

これに対して川口さんは、
「最初に言ったように、
世界観の設定を作ってうまくだましてくれるといいなと思った。

物語にとってあまり関係ないことまで考えちゃいそうな気がした。

想像の余白はあったほうがいいと思うけど、
ありすぎると余計なことまで気になる。

現代なのに、アイコスや火山など、引っ掛かりが多くて、もったいない。

最初に世界観を与えてもらえると
あとは安心してゆだねて見ていられるなと思った。

自分も最初はギリシャ悲劇だと思ったくらい。

国っていう背景は民衆などの大枠のぶつかり合いがあるから。
それがしっかり見えたほうがいい。」

と、作品のベースとなる背景をどうしていくのが良いかということと

「現実でイメージできるものを出すのは、結構リスクがある。
面白すぎる設定をつくるとそっちに引っ張られるので、
具体性はぼかしたほうがいい。」

というご意見を頂くことができました。


最後は上野さんから、
「自分が本格的に書いた作品としては2作目。
この先、どういう風に劇作をしていけばいいのかという迷いがあった。

背景をどうするかなど、自分の認識が甘かったことを自覚できた。
とても有難い。

色々な意見を貰えて嬉しかった。
これを機に1周り2周り成長していけたらと思う。」

と、今後に向けての決意を語ってくれました。


今回ご参加いただいた皆様には、
この作品に限らず、今後も作品を書いていくうえで、
参考になるご意見をたくさんいただきました。


様々な立場に立つ方からの意見を参考にして、
多くの人に理解してもらえる、より良い作品になることを願っています。


劇作家は、伝えたいことが沢山ある中で、
何を選び、どう伝えたらより理解してもらえるか
を常に考えて作品を作っているというお話を伺い、

見る側として、全てを理解することはできなくても、
どの作品にもそれだけの思いが込められていることを忘れず、
作品を拝見することが礼儀なのかもしれないと思いました。


今回の脚本担当である上野さんは、まだ大学2年生です。

この作品がどう変わっていくのか、
今後、どのような活躍を見せてくれるのかが楽しみです。

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日時
2017年6月30日(金) 18:30〜
会場
ゆめアール大橋 福岡市音楽・演劇練習場
作品名
『孤影-Shadow Loyalty-』
ゲスト劇作家
川口大樹さん(万能グローブ ガラパゴスダイナモス
リーディングキャスト
安藤美由紀さん(灯台とスプーン) /宗真樹子さん(劇団きらら)/テシマケントさん(劇団ZIG.ZAG.BITE)/中村歩道さん(空想工藝舎)/萩原あやさん(劇団HallBrothers)/緒方卓也さん(九州大学大橋キャンパス)/広瀬健太郎さん(劇団風三等星
ディスカッション進行
高崎大志/NPO法人FPAP

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

主催・助成・後援

主催:NPO法人FPAP
協力:九州地域演劇協議会


その他


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