ゲキトーク 北川大輔×鈴木アツト チャンスを生み出す○○力

日時
2014年1月19日(日) 18:30〜20:00
会場
cafe Teco(福岡市中央区)
パネリスト
北川大輔(カムヰヤッセン)、鈴木アツト(劇団印象 -indian elephant-)
進行
高崎大志(NPO法人FPAP)
  

その1 >>その2 >>その3

チャンスを生み出す作品力

北川:初めまして。東京で「カムヰヤッセン」という劇団を主催しています、北川です。劇団の活動は今年で6年目となりました。僕自身は、王子小劇場という80席位の劇場で、4月から芸術監督としてプログラムのディレクションをすることになっています。今日は宜しくお願いします。

鈴木:初めまして。第一印象の「印象」と書いて「いんぞう」と読みます、「劇団印象-indian elephant-」で脚本・演出をやっています。鈴木アツトです。普段は読書と映画鑑賞が趣味で、それだけやっていれば幸せなのですが、今日は生々しい、生き残っていくためのお金の話だとかを話せたらなと思います。よろしくお願いします。

高崎:進行を務めます、NPO法人FPAPの高崎です。
では、お二人の近況から伺いたいのですが、鈴木さんは年末にかけて急に演出の話があったとか。

鈴木:そうなんですよ。年末に福岡にリーディング公演を観に来る予定だったのですが、急に仕事が入り来れなくなって、メーテルリンクの『青い鳥』を調布市せんがわ劇場でやりました。本来は脚本だけの予定だったのですが、演出家が倒れてしまって急遽、演出もしました。

高崎:公立劇場の主催の演劇公演企画?

鈴木:はい、そうです。「親と子のクリスマス・メルヘン」という枠でした。

高崎:脚本だけでなく急遽、演出を任されるというのは結構しっかりとした仕事が来ているなという印象ですね。

鈴木:そうですね、上演台本を書いたのと、本番まで2週間だったのでやれる人が他にいなかったこともあって頼まれました。


北川大輔


鈴木アツト


高崎大志

高崎:一方の北川さん、福岡へはいついらっしゃったのでしょうか?

北川:16日に着きました。東京から5日ほどかけて来ました。

高崎:なぜまた5日も?(笑)

北川:そうですね、真冬にスーパーカブの50ccで来ました。

高崎:それはお疲れ様でした。その話は追々また聞かせて下さい(笑)。

チャンスを生み出す作品力

高崎:今回のゲキトークは「チャンスを生み出す○○力」ということでこの「○○」に何が入るか考えたいのですが、お二人とも30歳前後の脚本家でもあり、演出家でもあり、劇団主宰で、また何らかの形で劇場にお勤めでもある。北川さんは今年の4月に、東京でもエキサイティングな活動をされている、王子小劇場の芸術監督になります。

    一方、鈴木さんは新人戯曲賞や若手演出家コンクールで最終選考に残られたり、韓国での創造活動をされているということで、活発に活動をされているのですが、そんなお二人でもまだ油断できるわけでもないと聞いています。そんなお二人の立場から、これからどうやって活動を継続していこうとされているか、戦略的にどういうことを計画されているかをお聞きしたいです。まず、良い作品を作るというのが大切ですが、どういうことを考えて作品づくりをしていらっしゃるのでしょうか。

北川:僕は大学の演劇サークルを出て、一緒にやっていこうという仲間と劇団を始めたので、サークルが母体で、大学の先輩や親しい劇団の模倣から入ったと思います。最初は書きたいことがあって、やり方を模倣するところから始まって、第3回公演で王子小劇場で公演をさせてもらいました。その時の公演が評判も良くて、「ままごと」の柴幸男さんも参加されたことのある、東京 三鷹市の「MITAKA Next Selection」という企画に参加させてもらいました。

    その頃に自分の書きたいことや、作りたいものが見えてきた印象です。普遍性のあるものをやりたいとか、えぐるような会話を書きたいだとか、現代のぼそぼそ喋る演劇ではなく、旧来の演劇的な身体を信じた作品をつくりたい、など思い始めました。 そして昨年シアタートラムでさせてもらったときに、劇団員との話の中で「現代の古典」という劇団のキャッチフレーズを考え、それをテーマにした作品をつくっているところです。 >

高崎:鈴木さんはどうですか?

鈴木:僕は野田秀樹が好きなので、野田さんのような芝居を作りたかった。最近だとフィリップ・ジャンティやサイモン・マクバーニー、「水と油」というダンスカンパニーが好き。その人達の作品は「言葉があるけど面白い」ということが共通しているので、そのようなのを作りたいと思っています。

高崎:手応えはどうですか。例えば、これで喰えるな。いけるなと思いますか?

    (間)

鈴木:まぁ、いけるでしょうね。喰うだけならなんとかなると思います。

北川:おー!僕は常に迷ってます。初日が開けるまで、お客さんの前に出るまでどうなるかって。最近は逆にそういう作品のほうが受け入れられると思う。自分が一度成功した作品や方法を模倣しようとすると、劣化してしまうし自分の縮小再生産になってしまいます。劇団員だけで作った4人芝居とか、やったことないものに挑戦したものに関しては結果が残って手応えを感じます。

      

ターゲットを絞る

高崎:制作的な話になるのですが、出てきた作品をどうやってお客さんに届けるか、アピールしていくのかについて、考えていることはありますか?

北川:一番は、ターゲットをきちんと絞るというところだと思います。普遍性ということで、老若男女いろんな世代の人に見てもらいたいと思という時もありましたが、それよりは、今回の公演ではこの客層には150%満足してもらいたい。去年、特撮ヒーローもどきのような仮面ライダーの芝居をやったのですが、それが好きな人には、完璧に「すごい!」と言わせたかった。ターゲットを絞るとそういう人たちが引っかかってきて、絞れば絞るだけ自分たちの作りたいものがよりコアになって言語化されていく。

高崎:客層を絞ると、動員にマイナスの影響もあるのでは?

北川:特撮ヒーローもどきの時は僕達が発信する以上に、何度も見てくれたお客さんが口コミで広めてくれたり、発信をしてくれた。普段僕たちが認知できない客層にも、人伝えで広まっていったのがおもしろかった。

鈴木:僕はターゲットを絞ることはしていなくて、僕の劇団は東京で集客が300-800くらいで推移している。

高崎:結構幅がありますが。

鈴木:この前、アゴラで公演した時は300人だった。動員に関しては今日はあまり話せることはなくて、逆に教えてもらいたい。僕は今、少ないかもしれないが演劇をコアに見ている人に対して、自分の作品をより理解してもらえるかということをやっている。

高崎:鈴木さんは新人戯曲賞で最終選考に残られていましたね。残念ながら賞は獲れませんでしたが、どんなお気持ちでしたか?

鈴木:賞にはお金が付いているので、お金をもらえないのは悔しいですが、演出家協会の若手演出家コンクールや劇作家協会の戯曲賞の審査員に何を言われても気にしない。野田秀樹やマクバーニーとか尊敬する人に自分の作品がけなされたらショックですけど。

審査員の印象に残るために工夫をする

高崎:そこまで積極的に応募していく鈴木さんのアピール力がすごいなと思います。新人戯曲賞の場合、公開審査の終了後に、オープンな交流会があると聞いています。

鈴木:交流会で、わざと審査員に怒ってみた。建築家に安藤忠雄という人がいるのですが、コンペで落ちた時に文句のメールや電話をしていたらしい。そうすると審査員が翌年のコンペの時に自分の作品をしっかり見てくれるから。新人戯曲賞の場合は200本くらいの応募がある。一次審査の審査員が20本くらい読むそうだが、自分の作品が最後の20本目だったらどうですか?

北川:まあ、疲れていますよね(笑)

鈴木:一次審査で落ちる作品は、しっかりと読まれていなくて落とされている作品もあると思う。例えばエンターテイメント的でない作品があって、2度読んだときに戯曲の意図がわかる作品もある。自分の作品がそういう傾向だったとき、しっかり読まれるためには、自分は命をかけて書いているということを審査員に分かってもらうしか無い。その安藤忠雄のエピソードを知っていたので、公開審査のあとにわざと審査員に喰ってかかって(笑)

北川&高崎:え〜!大丈夫ですか、それ。

鈴木:表面的には怒っていましたが、印象に残れば、もしかすると次の公演本番に上演成果を見に来てくれるかもしれない、と思っていました。

高崎:確かに、そこで次の公演で成果を見に来てくださいと言われたら行くでしょうね。

鈴木:そしたら喰ってかかった審査員がアフタートークに来てくれた。

高崎:いい喰ってかかり方をされたんですね。

鈴木:それは感情的にではなく、戦略的にやっていたので。自分が良い作品を書いたということをアピールはするが、アピールしているという風に見せない。

高崎:北川さんは今の話を聞いてどうですか。

北川:僕は賞レースとは無縁で、 出していないですね。

高崎:鈴木さんは賞にどんどん応募しているイメージが強いですね。

鈴木:僕はエンターテイメント性の強い作品をつくっていて劇団の活動が11年目くらい。最初は観客動員を増やすことで売れたいと思っていたけど、7年劇団を続けていても観客動員は増えない。エンタメを打ち出して動員が増えないと、劇団経営がうまくいかなくなってくる。

    それで試しに戯曲賞出した方がいいかな?と思って愛知のAAF戯曲賞に応募したら、賞は取れなかったが、最終選考まで残った。その時に、審査員からは褒められなかったけど、愛知の劇場の人におもしろかったとすごく褒められた。それで、自分は戯曲賞などに応募したほうがいいのかな?というところが発端。

劇団印象-indian elephant-
第14回公演「霞葬」撮影:青木 司

高崎:鈴木さんは観客賞キラーですよね。

鈴木:そうなんですよ〜。エンタメ志向で。

高崎:若手演出家コンクールや、2013年の福岡の創作コンペティションで観客賞を獲られていましたよね。地元の劇団が参加する場合、観客賞は地元の劇団が圧倒的に有利ですが、それを押しのけて観客賞を獲られて、今の愛知のお話も観客賞。

鈴木:(笑)。韓国でやった時も、お客さんは字幕でみてすっごい湧くんですよね。

高崎:韓国は、どういう経緯で公演をするようになったのですか?

鈴木:観客動員を増やすという方向性に挫折したから、海外でやりたいという逃げ道の一つだった。東京に「タイニイアリス」という小さな劇場があって、そこが韓国とつながりがある。そこで韓国の蜷川と言われるイ・ユンテクという人が上演をしていた。その作品がすっごく面白くて、この人に気に入られたいと思った。それで韓国の演劇祭に足を運んで、自分の戯曲を渡したら、日本語のわかる人が戯曲を読んでくれておもしろいと言ってもらえた。それでワークショップを受けて演劇祭に呼ばれた。 

高崎:脚本を読んでくれと言うために韓国の演劇祭に行ったのですか?

鈴木:いや、演劇祭自体が見たかった。あわよくば、次につながるかなと思ってはいた。戯曲は直接本人に渡せなかったが、別の人に渡したらその人経由で読んでくれた。

その1 >>その2 >>その3

       

♪一言感想ツイートお待ちしています♪