１

　　　　　男１と女１が現れる。

男１　ほら、あそこ。（指差す）
女１　どこどこ？
男１　あの、ちょっととんがってるところの向こう側。
女１　えぇっ……どこ？
男１　いいかい、こっちからだと……

男１は、後ろから女２の肩に手をやり、見える角度に連れてきて見せようとする。
そこに、女２が現れる。

女２　何してるの？

男１は、女１から手を離す。
女１も離れる。

男１　あ、いや……ほら、例の。（指差す）
女２　ああ……（見て）ほんとだ。すごいわね。
女１　えぇっ？　（探して見ている）
女２　ガイドブックにも紹介されてるわけね。
女１　……もぅ、教えてよ！
男１　だから、あの、ちょっととんがってるところ、あるだろ。あの……あ
女１　　　　　　　　　　　　　　　　 　　　　（「あの」の後に）だから、それが……（気づき）どうしたの？
男１　……消えた。
女１　ええっ！
女２　なるほどね。
女１　……どういうこと？
男１　あ、いや、だから……終わっちゃったんだよ。
女１　そんなぁ……

そこに、女３と男２が現れる。

女３　……見た？
女２　見た見た。
男２　すごかったろ！
女２　一瞬だったけどね。
女３　一瞬だからいいのよ。

女１は拗ねてる。

男２　……どうしたの？
男１　見れなかったんだ。
女３　え。
女１　……もう、なんでもっと早く教えてくれなかったの？
男１　いや、だって、時間は……
女２　あたしは間に合ったわ。
男１　…………
男２　なんだよ、明日見ればいいじゃないか。
女３　そうよ。
女１　でも、明日の今頃は、みんないないでしょ。
男２　……そうでした。
男１　君が見たいっていうんなら、俺、残ってもいいよ。明日はちゃんと教えてやるから。
女１　……もういい。
男２　そう、拗ねるなって。教えてくれなかったわけじゃないんだろ。たまたま見れなかっただけじゃないか。しょうがないさ。
女２　ま、タイミングの問題よね。
女１　……そうね。（男１に）ごめんなさい。私の運が悪かっただけね。
男２　またそんなこと……
男１　いや、俺がもっとちゃんと―――
女３　別にあんなの見ようが見まいが関係ないわ。あれを見るためにここに来たわけじゃないし。
女２　そうそう、もっと大事なことがあるんだから。
女１　……わかってる。
男２　……そろそろ、夕食の準備が出来るって。
女２　食事の前にお風呂入りたいわ。ここ、温泉？
女３　天然温泉。
女２　やったー。
女１　……ねぇ、普通の温泉と天然温泉って違うの？
女２　なんか、違うんじゃない、成分とか。
男２　いや、同じさ。いい方が違うだけだよ。有名な温泉地の名前がついているかついていないかとか。もちろん、成分はそれぞれ違うけどね。あと、効用も。
女１　コーヨー？
男２　何に効くかってこと。
男１　ここのは確か、炭酸水素塩泉だから、神経痛や筋肉痛や関節痛、慢性消化器病や痔疾、冷え性、疲労回復の他、切り傷、火傷、慢性皮膚病などに効くはずだよ。あ、「美人の湯」っていわれているのは、この炭酸水素塩泉の場合が多いんだ。
女３　すご〜い！
男１　来る前にちょっと調べたんだ。
女２　そんなに詳しく調べたのに、あの時間だけはタイミングがずれたの。
男１　いや、時間は合ってたんだけど……
女１　もういいから。ほんと。ごめんなさい、つまんないことで拗ねて。もっと、みんなで話しましょう。最後なんだし。
男１　……うん。
女２　最後ねぇ。何が最後かわかんないけど。
女３　でも、初めてでしょ、５人揃ってこんなに遠出したの。しかも、一泊。
男１　最初で最後だからさ。
男２　よし。じゃあ、俺も温泉入るかな。
女３　夕食、大丈夫なの？
男２　みんな入るなら、いっとけば大丈夫だろ。
女１　混浴なの？
男２　違うよ、そういう意味じゃなくて。
女３　いいわよ、あたし、混浴でも。最後なんだし。（女１に）ね。
女１　え、あたしは……
女２　そうね、じゃ最初で最後の混浴、する？
女３　冗談よ。あたしの裸は、愛してくれる人にしか見せないもん。
男２　ほんとか？
女３　何よ。
女２　「愛する人」じゃないの？
女３　え？
女２　今、「愛してくれる人」っていった。
女３　だから、愛してくれる、人よ。
女２　へぇ、そうだったんだ。愛するより、愛されたい。珍しいんじゃない、女性としては。
女３　そうかしら。（女１に）あなたは？
女１　う〜ん、愛する方、かな。片思いが多いし。
男１　そうなんだ。
男２　というより、年齢的な問題があるんじゃないか。
女３　何よ、それ。大して変わらないはずよ、彼女と。（女１に）ね。
女１　ええ、確か５年。
女２　５年の年の差は大きいわよ。
女３　年じゃなくて、キャリアっていって、女性としての。
男２　そうだな、男関係のキャリア。
女３　もう。
女１　（女３に）やっぱり、仕事上、激しいんですか、男性関係？
女３　あのねぇ……あ、そうね、仕事上ね。しょうがないのよ。激しくしないと。（男２に）ね。
男２　（みんなにも見られ）いや、俺は知らないよ。そんな関係じゃないし。
女２　あら、行ったことないの、彼女の店。
男２　ないよ。（女３に）な。
女３　ええ、一度も来てくれてないわ。
男２　これからも行かない。いや、行きたくても行けなくなるし。
女１　……ねぇ、温泉入りましょ。
男１　（女１に）ここのは、女湯の露天風呂の方が広いらしいよ。
女１　へぇ。
女２　なんだ、差別されてるのね、男性は。
女３　そういうところがあってもいいんじゃない。
男２　今は女性客の方が多いっていうからな、温泉地は。じゃ、行くか。

　　　　　女２以外は行く。

残った女２は煙草を取り出す。
女１が戻ってくる。

女１　温泉、入らないの？
女２　外で一服してから行くわ。
女１　そう。（行こうとする）
女２　あ、さっきのやつ。
女１　え。（立ち止まる）
女２　実はあたしも見れなかったんだ。
女１　……そう。

　　　　　女１、去る。

暗転。
音楽。